この記事は奈良以外グルメ図鑑です。
井上ひさしが書いた「握手」という作品は中学校の教科書に載っているので、読んだことがある人も多いだろう。戦後間もない日々のルロイ修道士と「わたし」との交流を描いた作品で、ラスト、ほろっと泣ける感動作である。子ども時代、仙台の孤児院で過ごした「わたし」が、ルロイ修道士と再会するのが、上野公園に古くからある西洋料理店である。店名は書かれていないがおそらく上野精養軒のことだろう。
ルロイ修道士はレストランでプレーンオムレツを注文するが、ナイフとフォークを動かしているだけで、オムレツをちっとも口へ運ばない。実はこのとき体中が悪い腫瘍に蝕まれていて、死期が近かったのである。作中、「ラグビーのボールを押し潰したようなかっこうのプレーンオムレツは、空気を入れればそのままグラウンドに持ち出せそうである」と表現されたオムレツを一度見てみたい、食べてみたいと思っていた。
「桜の花はもうとうに散って、葉桜にはまだ間があって、そのうえ動物園はお休みで、店の中は気の毒になるぐらいすいている」と物語の中では書かれていたが、この日の上野精養軒は満席で外待ちまでできていた。スタッフの「どれくらいかかるかわからない、もしかしたら1時間ぐらい待つことになるかもしれない」という言葉を聞いて帰った観光客も多かったが、実際は20分ぐらいで席に案内された(広く、席数も多いので、回転が速いのだろう)。
周りを見ると、オムライスを注文する人が多く、ちょっと気持ちが揺らいだが、ここは初志貫徹、ルロイ修道士になった気分でオムレツを注文した。10分ほどしてオムレツが運ばれてきた。オムレツは簡単そうに見えて奥が深い。表面薄く火が通って、中は半熟とろとろ。ネットでは “普通” と書き込む人もいるが、いざ、これを作ろうと思っても、素人にはなかなか難しいのではないか。さらに明治5年創業、100年以上継承された味、ルロイ修道士(食べてないけど)、夏目漱石、森鴎外も食べた味、奈良からわざわざ来たと思えば余計においしく感じられたのであった。
住所 | 東京都台東区上野公園4-58 | ||
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地図 | |||
電話番号 | 03-3821-2181 | ||
営業時間 | 11:00~17:00(土日祝 10:30~18:00) | ||
定休日 | 月曜日 | ||
駐車場 | 有 | ||
ホームページ | HP instagram |
【店舗外観・店内・メニューなど】
【その他のメニュー】
オムライスを注文する人が多かったが、老舗の洋食店らしい品もいろいろ。上野公園内にあるということで、パンダにかけたメニューもあった。